人と関わりたくない時の心理・病気と働き方【著:臨床心理士】

人と関わるときのストレスは自然な反応

私たちは、日常のあらゆる出来事からストレスを受けています。ストレスと聞くと、嫌なものという印象がありますが、ストレスを感じるのは、私たちが身を守るために必要なシステムです。

 

例えば、キャンプをしているところをイメージしてください。バーベキューをして、花火をして、語り合って、満喫しました。そろそろ寝ようかとテントの明かりを消して、寝袋に入ろうとしたとき、外でガサゴソと草をかき分けるような音が聞こえます。近づいてくる。なんだろう、熊かもしれない。

 

そんなとき、身体にどんな反応が起きるでしょうか?その瞬間、眠気は忘れて、心臓はドキドキ、呼吸は浅く、手足が震え、手汗をかく、といったことが起こります。

 

大昔、お腹を空かせた猛獣と対峙する可能性がありました。対象が何者なのか、闘うのか、逃げるのか、瞬時に判断をし、行動しなければなりませんでした。のんびりしていたら命を落としてしまいます。

 

そのため、心拍数を上げ、全身に血液を送り、興奮状態にすることで、逃走や闘争に入れる身体の状態にする必要がありました。人間が生き延びるために、備わった機能なのです。

 

初対面の相手と関わる時にストレスを感じるのは、「こいつは何ものだ?!」「危険かもしれないぞ!」と脳が信号を出すために起こる反応なんですね。

 

初対面の相手でなくても、自分以外の人間が何を考えているのか、私達にはわかりません。どう思われているのか分からずドキドキしたり、自分から見たら常識はずれな行動をとる人を見てイライラしたりするのは、ある意味自然なことなのです。

 

人と関わりたくないと思いがちなパターン

人目を気にしすぎる

その場の雰囲気から状況を分析し、好まれそうな内容を推測→候補の中から発言内容を決定→タイミングを見計らっていよいよ表出→周囲から好意的な反応が返ってきたら一安心or微妙な反応が返ってきたら不安でいっぱいに。

 

“空気を読める”か“空気を読めないか”って、社会では重要視されていますよね。たしかに、周りの状況に合わせて柔軟に対応することは、コミュニケーションを円滑にする役割もあります。

 

しかし、相手の顔色をうかがいすぎて、不安になったり、相手の嫌われるんじゃないか、悪口を言われるんじゃないかと、想像を膨らませたりするのは、“空気を読む”というより「疑心暗鬼」です。そのような傾向は、慢性疲労症候群と関係しているとも言われています。

 

自分では、周りに嫌な思いをさせないようにと気を遣っているつもりかもしれませんが、「周りの目に映る自分」を気にしすぎているのではないでしょうか。また、三段論法のような思考がクセになっている場合や思い込みが強い場合もあります。

 

例えば、「あいさつをして返事がなかった→無視された→無視されたっていうことは私のことが嫌いなんじゃないか」といった具合です。その可能性もなくはないですが、本来は、様々な可能性が考えられます。聞こえなかっただけかもしれませんし、考え事をしていただけかもしれません。

 

他人の反応を気にしてしまう気持ちはわかります。しかし、そればかりで頭の中がいっぱいになると、人との関わりに疲れてしまいます。

 

自ら壁を作ってしまう

人との間に壁を作り、「群れるなんてくだらねぇ」と人の輪の中に入ることを拒むケース。周りのことを意識して周りの人に対して否定的な感情を持っているとき、「本当は近づきたい」という気持ちがないか観察してみてください。

 

表向き、人との関わりが「めんどくさい」と言いますが、本当に人との関わりが面倒な人は周りのことは意識しないですよね。本当は人が嫌いで関わりたくないわけではないかもしれません。

 

ありのままの自分を出して嫌われるのがこわいために、自分から拒否をし、相手が近づきづらい雰囲気を出しているのではないでしょうか。そうすることで、人に嫌われたとしても「自分から拒否してやったんだ」「近づかないようにしていたから仕方がない」と言い訳ができます。一種のセルフハンディキャッピングですね。

 

上辺の関係をリセットしたい

その場のノリに合わせてニコニコ、楽しいふりしてニコニコ。みんなとワイワイしている時は楽しくても、ふと、上辺だけの関係に虚しくなる。そんなケースもあります。

 

最近では、SNSでしか連絡を取らない友人関係も増えました。気軽にコミュニケーションを取れるというメリットはありますが、関係をリセットするのも実に簡単です。

 

気軽に楽しめる関係も悪くはないと思うのですが、そこに依存していると、突然「プツン」と糸が切れたように無気力になることがあります。ネットやメディアでは“人間関係リセット症候群”と呼ばれているようです。

 

自分を客観的に見つめて

「人と関わりたくない」そう思ったら無理して関わらなくていいと思います。また、そんな自分を責めることはありません。

 

誰にも会いたくないと思ったら会わなくていいし、付き合いを断りたいと思ったら断っていいんです。その分の時間を、自分に使っていいんです。自分の気持ちを一番に考えてみてください。

 

ただ、本当に人が嫌いで関わりたくないと思っている人は少ないはずです。「人と関わりたくない」と思う理由は何か、自分を客観的に見つめてみてください。自分の時間を優先にすることで見えてくるものもあるかもしれません。

 

関わり方のパターンを振り返る

  • 人に好かれようとしすぎていましたか?
  • 人との関わりを拒否していましたか?
  • 価値を感じないつながりでしたか?

 

その付き合い方の裏にある気持ちを探る

  • 自分に自信がなかったのでしょうか?
  • 自分を否定されて傷つくのがこわいのでしょうか?
  • とりあえず周りに人がいることで安心感があったのでしょうか?

 

「人と関わりたくない」と思ったきっかけを考える

  • 自分の人生を生きている心地がしない
  • 周りが自分を理解してくれない
  • 自分の思い通りにいかない

 

自分の中にある信念を探る

「〇〇すべき」とか「こうしなければ嫌われる」という信念はありませんか?「相手に合わせるべきだ」「誘いを断ったら嫌われる」「みんなから認められなければならない」といった具合です。

 

そのような信念と完璧主義的な傾向は、自分の行動を制限するだけでなく、そこから逸脱する他者を許せずに不満がたまります。そうしてだんだん追い込まれていきます。

 

相手に合わせなくてもいいし、誘いは断ってもいいのです。相手に合わせなくても離れていかない人は離れていかないし、合わせたところで離れていく人は離れていくのです。上に挙げた以外にもさまざまな背景があるでしょう。

 

仕事の選択肢と働き方について解説

働き方も多様な時代になりました。選び方次第で、苦手な関係を避けることはできます。いろいろな働き方について紹介をしていきます。

 

極力人と関わりたくない

極力人と関わりたくない方にとって、「フリーランス」は、自分のペースで働ける魅力的な選択ではないでしょうか。通勤ラッシュの満員電車に乗らなくても良く、働く場所を選ばず、職場の人間関係のしがらみもありません。

 

フリーランスの職種としては、エンジニア(SE /プログラマー/アプリ開発)、ライター、デザイナーなどがあります。何か手に職をつけておくと良さそうですね。

 

また、スケジュール管理が大変なことや収入が不安定なこと、細々した事務作業や手続きも自分自身で行わなければならないことなど、デメリットも知っておく必要があります。

 

自分の予定を優先したい

周りの目を気にして、自分の予定を優先できないことに、不満を感じている方は「フレックスタイム制度」を導入している企業を選ぶという方法もあります。「フレックスタイム」は、定められた枠の中で、出勤時間や退勤時間を従業員が自由に決められる制度です。

 

通常の「フレックス制」は、“コアタイム”という必ず出勤していなければならない時間があることが一般的です。その他の時間は自由に調整できます。「完全フレックス制」は、出勤する時間や退勤する時間を自由に決めることができ、現在では、休む曜日を自分で決められる企業もあります。

 

自由度が高い分、自己管理が求められます。自分の仕事をしっかりできるのであれば、周りの目を気にせずに、プライベートを優先して働くことができます。

 

導入している企業はまだまだ少ないのが現状ですが、これからの選択肢の一つとして知っておくのはいいのではないでしょうか。

 

独特な感性が周りと合わないと感じる

周りに自分の感性をなかなかわかってもらえないと感じている方は、その独創的な感性を磨いて、生かしていく方法もあります。

 

突飛な発想を受け入れてもらえなかった経験もあるかもしれませんが、音楽関係、デザイン関係、エッセイストなど、その発想力が求められる職業もあります。あなたの世界の見え方、「ナンデ?」「ワクワク!」「モヤモヤ」を商品にできるかもしれません。

 

ただし、ユニークな感性があるからと言って誰もがなれるわけではありません。それを商品に仕上げるまでの才能やスキル、意志の強さや根性があってこそ。さらに、商品にするからには、独特でありながら、独りよがりではない「世間がワクワクすることは何か」をキャッチする力も必要です。

 

また、完全な個人活動でない限り、クリエイティブな業界は、工程ごとにそれぞれのプロフェッショナルが担当する分業制であることがほとんど。作業は個人個人であるからこそ、進捗状況や方向性などを共有するため、案外、他者との報告・連絡・相談が密だったり、ミーティングが多かったりします。

 

いろいろな選択肢がある

多様な生き方や働き方が認められ、無理に苦手な環境に身を置かなくても、働ける時代になりました。

 

どのような選択をするのか。それを考えるために、まずは、自分自身を客観的に見つめましょう。働く上で重視したいポイント、向き不向きなどを整理し、その上で、自分が選びたい働き方について考えていきます。

 

  • 選びたい働き方に必要なスキルや能力は?
  • その中で今の自分が持っている力と足りない力は?
  • 足りない部分はどうカバーしていくのか、あるいは身に付けていくのか?

「仕事」には、それぞれ、求められる能力があります。自分自身で選び取っていくだけの工夫や努力も欠かせません。

 

病気の可能性も

極度のストレスや恐怖感がある

人と関わる上でストレスを感じることは、特殊なことではありませんが、生活に支障が出ているとなると、性格ではないかもしれません。例えば、次のようなケースがあります。

 

周囲の目を過剰に気にして仕事が手につかない

職場の人に「仕事が遅い」とか「だめなやつ」と思われるのことに恐怖を感じ、周囲に人がいると緊張が高まり、集中できず、ミスが増え、ミスが増えることで、より一層、緊張が高まり悪循環になっているようなケース。

 

誰かと食事を取ることに苦痛を感じる

誰かと食事を取ることに強い恐怖を感じ、会社のお昼休みに「一緒にランチに行かない?」と誘われるのが苦痛で、仕事が忙しいふりをして断り、昼食をとらない生活を続けているようなケース。

 

子どもの頃から人付き合いが苦手

子どもの頃から人付き合いが苦手で、人と一緒にいて話していると、赤面したり、涙が出そうになったりするために、人付き合いを避けているようなケース。

 

このように人と関わる上で、極度の苦痛が伴い、日常生活に支障をきたしている場合は、「SAD(社交不安症)」の可能性が疑われます。単なる人見知りや内気な性格とは区別されるものの、明確な境界線はありません。

 

上に挙げた例のほかにも、人に見られていると文字が書けない、他の人がいる場で電話に出られない、他の人からブスだと思われるのがこわくて人の中に行けない、お腹がなるのではないかと不安で人の中に行けないなど、人により困難は様々です。

 

SAD(社交不安症)の方は、と関わりたくないと思っているわけではありません。人が嫌いなわけでもないのですが、人と関わる場面で拒否反応が出てしまうのです。

 

SADの大きな特徴は以下の3つです。

①何かしらの対人場面で症状が出る

②心臓がドキドキしたり、汗をかいたり、呼吸が浅くなったり、吐き気に襲われたりなど、身体の症状を伴う

③症状が出る場面を避けてしまう、もしくは避けられないと極度の苦痛に襲われる

 

他人から見れば何でもないことのように思えるため「気にしすぎ」と言われてしまったり、自分でも周囲に言えず、性格のせいだとあきらめてしまったりすることが多いです。また、小さい頃や若い時に発症することも多いため性格だと思いこんでいることもあります。

 

「私って病気なの!?異常なの!?」と不安に思う気持ちや病気として認めたくない気持ちがあるかもしれませんが、決してめずらしい病気ではありません。生涯有病率(生きている中で一度は罹患する確率)は、7人に1人とも言われます。

 

そして、治らない病気ではありません。病気を正しく理解し、適切な治療を受けることが改善への近道です。専門機関への受診をおすすめします。

 

外出や身支度が面倒で意欲がわかない

  • そもそも外出がおっくう
  • 身だしなみを整えるのが面倒
  • 食事を取るのも面倒
  • お風呂に入ろうと思えない
  • 洗顔や歯磨きなども面倒
  • 朝ベッドから起き上がるのがつらい
  • 何をしていても楽しくない

このように、いろんなことがおっくうで人と関わる意欲がわかない場合には、「うつ病」の可能性が疑われます。

 

うつ病の症状として知られているものに、気分の落ち込みが挙げられます。ゆううつな気分がずっと続きます。一日中ゆううつでほぼ毎日、2週間以上続くことがひとつの目安です。人によっては、怒りっぽくなって、イライラ、ソワソワ、という感じが表に出る場合もあります。

 

今まで好きだったことにも興味をなくして楽しめなくなってしまうという症状もよく見られます。好きだったテレビ番組を見なくなる、毎週通っていたジムに行かなくなる、おしゃれな人がファッションに無頓着になる、といった感じです。

 

様々なことが面倒に感じ、何をやるにもだるくて、朝顔を洗って歯を磨く、着替える、お風呂に入るなどの、日常的な動作までおっくうになることがあります。そうすると、人と接する気力がなくなってきてしまうのです。

 

「なまけている」わけではありません。やる気を出したくても出せず、やりたいこともできないつらい状態です。早めに専門家に診断を仰ぎ、診断に基づいた適切な治療を受けることをおすすめします。

 

まとめ

  • 人と関わる時に感じるストレスは、人間が身を守るために備わった機能から来るある意味自然な反応です。
  • 人と関わりたくないと思いがちな付き合い方について、人目を気にしすぎて疲れてしまうケース、気軽な関係をリセットしたくなるケース、自分から壁を作りセルフハンディキャッピングを行なっているケースの3パターンご紹介しました。
  • 無理に人と関わる必要もそんな自分を責める必要もありません。ただし、自分のことを客観的に振り返る機会を持ってください。
  • 働き方も多種多様です。自分に合った働き方を選んでいくことができます。
  • 極度の不安や恐怖を感じるときは、SAD(社交不安症)の可能性もあります。一度、専門機関にご相談ください。
  • 外出や日常の動作がおっくうになり、今まで楽しめていた人との関わりが急に楽しめなくなった場合などは、うつ病の可能性も視野に入れ、一度、専門機関にご相談ください。

 

おすすめの記事