「人付き合いは疲れるけど孤独は寂しい」相反する葛藤の対処法

私は以前、大学で学生相談を受けていたとき、「人付き合いは、疲れるし、面倒です。でも、孤独は嫌で、友達はほしい。」と、相談に来られた方がいました。

 

「飲み会に参加しても、輪の中に入れず、気まずい思いをするだけ。家に帰るとドッと疲れが出て、いつも参加したことを後悔します。できれば行きたくないけど、全く誘われないのも寂しい。」というのです。

 

他の人から、声をかけられることもあるそうですが、「うれしくもあるけど、面倒だとも感じます。でも一人は寂しいので、人と一緒にいたい、関わりたいとも思います。人と関わりたい気持ちと関わりたくないという気持ち両方ある。」と、話していました。

 

今回は、そんな、人付き合いに対して、相反(あいはん)する気持ちを抱えて悩んでいる方に向けて、お話をしていきたいと思います。

 

アンビバレンスと葛藤

1つの対象に対して、相反する感情を同時に持っていることを、『アンビバレンス』と呼びます。

 

「人付き合い」という事柄に、「面倒、関わりたくない」という気持ちと「寂しい、関わりたい」という気持ちの両方を持っていることは、アンビバレンスな状態です。

 

アンビバレンスという概念を理解する上で、アイドルグループ欅坂46の楽曲「アンビバレント」の歌詞は、とても分かりやすいので、一度見てみてください。また、どちらも選びたくない、どちらも選びたいと、二者の合間で揺れ動くことを、『葛藤』といいます。

 

葛藤は、わかりやすい例を挙げると「2人から告白されて、Aちゃんはかわいいし、Bちゃんは美人だし、選べない」とか「赤点は取りたくない、勉強もしたくない」とか、「ケーキを食べたいけど、太りたくない」といった、いわゆる、究極の選択というやつです。

 

アンビバレンスであれ

アンビバレンスを抱くこと自体は、全くおかしなことではありません。むしろ、自然な心の働きです。人の心は白黒つけることはできません。さらに、白と黒のグラデーションだけでなく、カラフルで、どこまでも奥行きがあります。いろんな感情が綯い交ぜになることは、当然のことなのです。

 

昨日まで、水に黒いインクを垂らして広がっていくような暗い気分だったのに、今日は、ひまわりが咲きほこったオレンジのような明るい気分、ということもあります。時には、グレーとピンクが同時に存在しているような気分の時もあるでしょう。

 

アンビバレンスを抱くと苦しい理由は、白黒つけようと葛藤してしまうから。相反する気持ちを戦わせて心の中は紛争状態。そして、摩擦が起きてしまうのです。人は、アンビバレンスであっていいのです。

 

寂しいけど人付き合いは面倒という葛藤の理由

人付き合いは面倒で疲れるという気持ちと、一人では寂しいから誰かと一緒にいたいという気持ちを持っていることは、そのまま受け入れ、折り合いをつけていくことがポイントです。どんな悩み事も、解決は、自分を知ることから始まります。何があなたを複雑にさせ、葛藤を感じさせているのか、掘り下げてみましょう。

 

⑴.人付き合いに関する思い込み

人と関わる上で、何か思い込みはありませんか?例えば、周りに合わせないと嫌われるという思い込みから、無理をして周りに合わせてはいないでしょうか。そのような独自のルールや思い込みのことを、認知行動療法では『媒介信念』と呼びます。媒介信念にはつぎのようなものがあります。

  • 人に嫌われることは最も恐ろしいことだ
  • 常に明るく振舞わなければならない
  • 本来の自分を知られたら、愛されない
  • 一度の失敗ですべて失うに違いない
  • 自分の弱さを見せるべきではない
  • 完璧でないことは失敗したことと同じだ

この媒介信念は、出来事のとらえ方、感情、行動に影響を与えています。その枠組み通りにならないことによって葛藤し、ストレスを抱えているのかもしれません。

 

自分の中に、独自の偏った信念を持っていることに気づいたら、少し合理的な要素を添え、徐々に緩めていけるといいでしょう。

 

⑵.過去の経験

人間関係で嫌な思いをした経験から、臆病になっている場合もあるかもしれません。ちょっとしたきっかけで、嫌な思い出がよみがえり、ブレーキをかけてしまっていることもあるでしょう。人間関係で傷ついて、つらかったことでしょう。過去の思い出は変えられませんが、環境や関わる人は変わりますし、自分でも変えられます。

 

また、経験の積み重ねによって、①でお話しした思い込みが作り上げられたり、強固なものになったりすることもあります。

 

⑶.自信のなさと自己注目

コミュニケーションを取ることへの苦手意識や、何をしてもうまくいかないのではないかという不安感など、自信がないことで人との付き合いを避けているパターンもあるでしょう。自信がないために、殻に閉じこもってしまったり、あるいは自分を大きく見せようと虚勢をはってしまったり、ということもありかもしれません。また、そんな自分が、相手の目にどう映っているのかを常に気にしてしまい、疲れてしまうのです。

 

⑷.繊細な性質

もともと繊細な性質を持っている人は、相手のささいな言動に、傷つき、深刻に受け止めすぎてしまう場合があります。また、繊細なタイプの人は、共感能力が高いので、相手の状況や気持ちを汲み取り、相手に合わせて行動する傾向があります。人付き合いで疲れる特徴には、どのようなものがあるでしょうか。今までの人付き合いを振り返ると、パターンが見えてくると思います。

 

また、ここで挙げた特徴は、それぞれが完全に独立しているものではありません。特に、①~③は密接に関係しあっています。いろんな視点から考えてみてください。

 

特別な素質である可能性も

⑴.HSPという特別な素質

一人は寂しいけれど、どうしても人付き合いは疲れてしまう、と感じるとき、1つの可能性があります。それは、うまれつき敏感な性質であるかもしれないということです。上にも、敏感な性質を理由の1つにあげましたが、HSPという生まれつきの性質により、人付き合いで疲れが出やすい場合もあります。ここでは、HSPについて少し詳しくお話をしていきます。

 

HSPは、Highly Sensitive Personのことで、刺激に対する感受性が高い人のことを呼びます。アメリカの心理学者であるアーロン博士により、提唱されました。どの社会にも1520%の割合で、HSPの特徴を持つ人がいると言われています。このHSPは刺激に対して敏感なため、音や光、他者の言動など、ささいなことにも圧倒されやすい一面がありますが、以下のような才能も持ち合わせています。

  • 共感力が高く相手の内面を汲み取ることができる
  • 直感力やひらめき力に優れ、第六感でキャッチするような鋭さがある
  • 思慮深く、慎重で正確である

周りの人がなかなか気づかないことにも気づける能力があります。それゆえに、疲れやすく、孤独を感じやすい一面があるのです。もしかしたら、あなたの傷つきやすさや疲れやすさはHSPの可能性もあります。

 

⑵.HSPの疲れやすさの対処法

基本的に、刺激の多い環境は苦手です。そのため、多くの人が行き交い、日々状況がめまぐるしく変わる職場は特にHSPが疲れやすい環境です。頼まれた仕事はなかなか断れないでしょう。それは、相手に共感する能力が高いために罪悪感も抱きやすいからかもしれません。そして、相手の気持ちを察するだけでなく、自分も相手の状況に立たされているような感覚に陥ります。

 

そのため、境界を作ることが苦手なのですが、その人の課題と自分の課題は、常に分けて考えるクセをつけるといいでしょう。自分にできることに集中しましょう。

 

また、刺激に敏感なため、問題点を指摘し、改善していく力も持っています。時には、その力を発揮し主体的に取り組む意識を持ってみてください。HSPの人の場合、オフィス環境や通勤条件による、ストレスが大きい場合もあります。環境を調整していくこともストレス軽減につながります。

 

葛藤を解消する

⑴.いろんな関係性があってい

深く関わり何でも腹を割って話せて親しい相手だけが友達だと思っていませんか?友達がいるかいないか、深い関係か浅い関係か、これも白か黒かの思考になっている状態かもしれませんね。もしくは「友達であれば親密に関わるべき」という思い込みがあるかもしれません。

 

自分の時間も大切にしながら付き合う関係もあるのではないでしょうか。それぞれの関わり方があっていいと思います。

 

⑵.一人でいることと人と一緒にいることの動機

自分にとって一人でいることと人と一緒にいることの動機はなんでしょうか。それぞれにどんなメリットがありますか?

 

一人でいるときは、周りに気を遣わず、好きなように行動ができます。人と一緒にいることの動機はどのように感じていますか?

 

人と好きな事や楽しさを共有できることに喜びを感じるでしょうか。それとも、一人でいることが恥ずかしく、世間の目が気になるといった動機でしょうか。

 

本当は人と自分の時間を共有したいと感じているのに、疲れてしまう場合は、自分の心を相手にオープンにしていくことが解決法になるでしょうし、一人でいることに対する世間の目が気になるという理由で、人と一緒にいるのであれば、一人でいられる強さを持つことが解決策になるだろうと思います。自分の声に耳を傾け、客観的に見つめ、解決策をかんがえていくことが必要です。

 

⑶.一人でいられる自信と強さを持つ

2(1)でもあげた思い込みや独自のルールなどを緩めていき、内面を柔軟にしていくことと、外見的な自信をつけていくことの両方の努力で、一人でいられる強さが身についていきます。

 

自信をつけると同時に、実際の行動パターンを変えていきましょう。例えば、飲み会を断ってみる、一人でカフェに入ってみる、友人からの誘いを断る(上手に断るスキルを身に着ける)、などです。

 

一人でも大丈夫なんだという体験の積み重ねをしていくことで、「一人でいることは恥ずかしい」という考えが少しずつ変わっていきます。

 

また、一人でいられる強さを持つことによって、自然と人付き合いも豊かになり、スムーズになっていきます。

 

まとめ

  • 「人付き合いは面倒」「一人は寂しい」相反する感情を持つことは自然なことです。その状態をアンビバレンスと呼びます。アンビバレンスな状態を受け入れましょう。
  • 両者を戦わせて葛藤をすることはストレスになります。葛藤をする理由は様々です。自分を分析していきましょう。
  • 人付き合いをはじめ些細な刺激に動揺しやすい性質をもっているのかもしれません。それをHSPと呼びます。特別な才能を持っているがゆえかもしれません。
  • HSPの人は、自分と人との境界線を意識することと、ストレスを感じにくい環境を選んでいくことが解決のポイントです。
  • 葛藤を解消するためには、いろんな関係があっていいことを知りましょう。
  • 一人でいることと人と一緒にいることの動機を整理し、それに合った解決策を検討していきましょう
  • 一人でいられる自信と強さを持つことで、充実し、自然と人付き合いもスムーズになっていきます。

 

おすすめの記事