相談に訪れる方の中には、「死にたい」、「消えてなくなりたい」、「生きているのがつらい」、そんな気持ちを吐露される方がいます。
「いなくなれるなら、ここから消えてしまいたい。死にたい・・・自殺をしよう、実行しようとは思わないけど、消えてしまいたい」と、そっとお話をされた方がいました。
最初に、「死にたい」、「消えたい」と感じる状態の中で、その思いを話してくれたことに感謝をしたいです。そして、ここまで、「死にたい」と思うほどに、一生懸命、自分と向き合ってきたことに敬意を表します。
また、このページを開いてくれた方も、それだけ自分の人生に向き合ってきたのではないでしょうか。また、「死にたい」と感じる一方で、その気持ちを軽くしたいと願い、その方法を模索していることと思います。そんなあなたの、何かの助けになればと願っております。
1.持ってはいけない感情ではない
まずは、その気持ちを否定しなくていいということを知ってほしいです。周囲は、あなたが「死にたい」と言ったら、「そんなこと簡単に言ってはいけない」、「生きていればいいことがある」と反応するかもしれません。その励ましには、違和感を覚えます。
なぜなら、あなたの「死にたい」とか「消えたい」という言葉は、単に「命を絶ちたい」というのとは、違うのではないかと思うからです。「死にたい」というその一言には、いろんな感情や思考が混ざり合っています。
「苦しい」、「楽になりたい」、「未来に希望が持てない」、「さみしい」、その思いが募って、「死にたい」、「消えたい」という言葉になったのではないでしょうか。
人は、生きることのストレスが大きくなりすぎると、死ぬことに対するストレスを上回り、死ぬ方が楽なんじゃないかと感じるようになります。「死にたい」という感情は、あなたが思っているよりずっと身近で、誰にでも起こり得る感情です。
死にたいと思うこと、その思いを吐き出すこと、それは悪いことではありません。死にたいと思う自分はおかしいんじゃないかとか、死にたいと言うのは悪いことだ、と自分を責めなくていいのです。
ただ、「死にたい」という感情が前面に出てきて、それが常態化してしまった時、それは、あなたの心や体のサインです。まずは、あなたが今どのような状態かを確認していきます。
心のエネルギーが低下しすぎているときは、思考力・判断力も低下しやすいので、専門家と話をしながら自分の状態を理解していくことが良いと思います。以下を参考にしてください。
2.まずは話してみませんか?
死にたいほどつらい気持ちを、吐き出せる場所があります。あなたの秘密を守り、寄り添ってくれる場所があります。一人で抱え込むことは、とても苦しいことです。安心して、死にたいと言える場所を利用してみてはいかがでしょうか。
fa-address-bookこころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556(おこなおう まもろうよ こころ)
厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/kokoro_dial.html
fa-address-bookSNS相談も受け付けています
厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_sns.html
3.今の心の状態を把握する
対処法は、現在の状況や心の状態によって、変わることがあります。あなたが、死を意識する程度と計画性は、どのくらいでしょうか。
自殺までは考えておらず、具体的な理由はないものの、漠然と自らの死を願う状態のことを「希死念慮」と言います。その程度は幅広く「ずっと眠り続けたい」や「そっと消えてしまいたい」といった考えも、これに含まれます。逆に、自殺という手段で、人生を終わらせるたいと明確に意識していることを「自殺念慮」と言います。
自殺念慮がある時、具体的に計画を立てていますか?時期や場所、手段など、どのくらいの具体性があるでしょうか?
自殺念慮が強い時、計画の具体性が高い時、誰にも話せず一人で抱え込んでいる時、希死念慮に加えて不安や焦りが強い時、希死念慮が頻繁にやってくる時などは、上記の電話相談を活用したり、専門家に繋がることが有効です。
4.希死念慮への対応
①書き出してみる
頭の中のごちゃごちゃ、心の中のモヤモヤ、悩みに直結しないことでもなんでも、書きたいことを書きたいだけ、書き出してみてください。
箇条書きでも構いませんし、なぐり書きでも、イメージでも構いません。整理できていなくていいのです。
「死にたい」あるいは「消えたい」という気持ちの中にどんなものが混ざり合っていますか?書き出すことで、その言葉に隠れていた自分のいろいろな気持ちが見えてくるかもしれません。
不安や感情の洪水に流されて、どんなことにストレスを抱えているのか、問題が見えなくなりがちです。書き出してみると、落ち着いて整理しやすいと思います。
②「死にたい」を変換する
「死にたい」という思いが頭に浮かんできた時、「死にたい」という考えが生まれる原因があります。明確な理由が思いつかない場合もありますが、なんらかの本心が隠れてことがほとんどです。
「死にたい」という言葉の背景にどんなものがあるか、一言で表していた気持ちを、具体的に変換してみてください。
その方法は、「死にたい」という考えが浮かんできた時、どんな状態になっているのかを観察し、そして、その言葉を言い換えてみましょう。
「死にたい。それほどに、いじめられて傷ついているんだなぁ」、「死にたい。それほどに、疲れているんだなぁ」、「死にたい。それほどに、仕事がつらいんだなぁ」といった具合です。
「死にたい」という言葉は、表面に出てきている一部でしかありません。それを抑え込もうとしても、いつかパンクします。かといって、何も対処しなければ、蓄積されていく一方です。
今は、死が、苦しい状況から解放されるための唯一の手段である気がしているかもしれませんが、他の方法で、その苦しみがなくなるのであれば、死という選択は、必要がなくなります。
死という選択肢を完全に消さなくてもいいです。他の選択肢も並べ、その上で、もう一度、どの選択肢を選ぶのか考えてみてください。
死という選択を取る前に、問題は何かを整理し、他の方法で、問題への対処ができないかを考えてみてください。すぐに根本の大きな問題を解決しようとしなくてもいいのです。1つ1つできることを目標にしてみてください。
③特定のストレスが大きいとき
職場のストレス、学校でのいじめなど、今まさにつらい現実と闘っていて、明確なストレスの原因がある時、私は、死にたいと思うくらいにつらいことがあるなら、楽になる方法を考えてみてください。
死ぬこと以外の選択も探してみましょう。死ぬほど学校がつらいのであれば、学校に行くことが命より大切だとは思いません。
人生のうちのほんの一部に過ぎません。学校を辞めたからと言って、勉強が一切できなくなるわけではありません。仕事だって辞めて構わないと思います。
ゆっくり休んでみるのもいいのではないでしょうか。「ちゃんとしなくてはいけない」という自分を追い込むルールを取り払い、自分のためだけに休養をとることも有効です。
死ぬこと以外に、選択肢なんてないと思われるかもしれませんが、他の選択肢もあるかもしれないということを思い出してみてください。
④生活が困窮しているとき
家賃が払えず住むところがない、社会に出るのがこわい、家から飛び出してどうすればいいかわからない、そのような状況で「もう死ぬしかない」と思っている場合は、救済の制度があります。
平成27年に、さまざまな理由で生活が苦しい方を支援する制度ができました。全国に相談窓口もあります。一度相談してみてはいかがでしょうか。
fa-address-card生活困窮者自立支援制度
厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000073432.html
⑤生活リズムを整える
生活リズムは、心身の健康に影響を与えます。生活リズムがくずれていると、神経伝達物質セロトニンの分泌を妨げてしまいます。
セロトニンは、精神を安定させ、ストレスを軽減させる働きがあります。逆に、セロトニンが不足すると、気分が落ち込む、疲れやすくなり、不安になる、などの状態に陥りやすくなります。
無理して早寝早起きをする必要はありません。自分のできる範囲で、睡眠をとり、午前中には起き、日光を浴びる、食事を摂る、適度な運動をすることを習慣化することが有効です。一般的な健康法と変わらないですが、それが何においても、重要になってきます。
夜眠れない場合は、気にしすぎると余計に眠れなくなってしまうので、どちらかというと「日中は活動をする」ということを意識してみてください。日中の生活リズムが整うことで、睡眠のリズムも改善されてきます。
症状がひどく、どうしても眠りにつきにくいという方は、医療機関に受診し、服薬することも一つの方法です。
インターネットなどで様々な情報を目にし、「依存してしまうのではないか」と不安かもしれませんが、薬の助けを借りることは、こわいことではありません。
薬への不安感があることを、主治医に伝え。主治医と相談をしながら、用法、用量を守って使用すれば、回復の手助けになります。
⑥物事の捉え方を柔軟にする練習
『②「死にたい」を変換する』をもう少し専門的に見ていきます。少し、難しいので、心のエネルギーが回復してきたら、参考にしてみてください。
物事の見方やとらえ方のことを「認知」といい、認知にアプローチをしていくことによって、気持ちを軽くしていく方法を認知行動療法といいます。
バランスの良い認知を身につけていきましょう。このとき、悪いのは「死にたいと思うあなた」ではありません。あなたの頭に浮かぶ「イメージ」自体のみが問題なのです。
自然と頭に浮かんでくる考え、イメージのことを「自動思考」といいます。「死にたい」とか「死んだ方がいいんじゃないか」は、この「自動思考」に当たります。私たちは、この自動思考に気分や行動が左右されます。
いろいろな自動思考をキャッチしてみましょう。どんなことが頭に浮かんていますか?ふと心配になったことはどんなことですか?
fa-arrow-circle-right自動思考の例
「どうせ失敗するだろう」
「嫌われているんじゃないか」
「何をやってもうまくいかない」
自動思考がキャッチできるようになったら、書き出して整理をしてみましょう。以下の方法は、認知再構成法とかコラム法と呼ばれます。それを少し簡略化にしたので、試してみてください。
- 状況:自動思考が浮かんだ、状況は?
- 自動思考:その時の浮かんだ自動思考と、その確信度を記載します
- 気分:その時の、気分とその気分のレベルはどのくらいでしょうか?
- 根拠:自動思考が思い浮かんだ根拠はどういったことでしょうか?根拠は事実に基づいたことだけを挙げます。「~だと思ったから」「~だろう」は想像です。
- 反証:自動思考を見直す段階です。視点を変えてみましょう。友達が同じ状況だったらどんな言葉をかけてあげますか?
- 気分の変化:気分はどのように変化しましたか?気分は改善していなくても失敗ではありません。反証を挙げて、バランスの良い考え方が出てくれば成功です。
⑦どうしても希死念慮が消えない時
「死」という選択肢を完全になくさなくてもいいのです。死を選ぼうと思ったら自分で選べる、と考えて、1時間延期してみませんか?1時間死なない約束をしてください。
最後の1時間、好きなことをするつもりで、死ぬまでにやりたいことはなんでしょうか?その1時間思い切り楽しんで過ごしてみてください。
焦りや不安が強い時に、衝動的な勢いで自殺が実行されることも珍しくありません。1時間延期をしただけで、気分が変わることもあります。
そして、それができたら、1日先送りしてみます。そして、最後の1日と思って、思い切り好きなことをしてみてください。あなたも、自分の自由に過ごしていいのです。あなたは、楽しく人生を歩んでいいと許してあげてください。そして、1日楽しめた自分をほめて感謝します。
5.おわりに
死にたい気持ちを持っている自分を否定しなくていいのです。その中に、隠れている気持ちに気づき、自分を肯定してあげてください。
肯定しようとしてできないそんな自分も、ありのままの自分をまずは認め、ここまで生きてきた自分を認めてください。矛盾するように感じるかもしれませんが、それができなくても、自分を否定してしまっても、それでもそんなあなたは悪くありません。
この記事を目に止めていただき、ありがとうございました。あなたにとって、何か助けになることがありますように。