保育士のみのりです。小学校の放課後児童指導員もしています。小学生には乳幼児とはまた違った可愛さを感じる日々です。私はこの仕事を始めてまだ2年目ですが、児童指導員の現場の厳しさを日々感じています。
今回、この記事では、放課後の児童指導員の現場についてお話をしていきます。
放課後教室は学校の延長ではない
小学校の授業が終わって、主に保護者が家にいない子どもたちが教室にやってきます。同じ学校内にあるので、学校の延長のようにも思いわれますが、その立ち位置は全く違います。
まず、学校にはクラスや時間割というものもあり、それに合わせて生活することが当たり前です。子どもにも特性があるので、その子が好むと好まざるは別としても、それが当然だとインプットはされています。
一方、放課後教室には、学校の権威がありません。放課後なので、家庭のニュアンスがあり、子どもたちが「ただいま」と帰って来られるような安心感を持てる場所である必要があるのです。子どもたちも、本当は自分の家に帰って、「ただいま!」とランドセルを放り投げたいところですよね。
家庭であれば、せいぜい3人くらいまでの子どもです。ランドセルを放り投げようが寝そべろうが、さほど害にはなりません。ところが放課後教室では、何十人もの子どもが次から次へと入ってきます。その子供たちがそんな事をすれば、騒がしいだけでなく危険も伴います。「おかえり!」と温かく迎えてあげたいところですが、それだけでは成り立ちません。落ち着いて行動するよう指導する必要があるのです。
学校の教室に入って、ランドセルを放り投げる子どもは、なかなかいないでしょう。それは学校が、子どものスイッチが無意識にONになる場所だから。教室で「ランドセルを放り投げない!寝そべらない!」と、指導する必要のある小学校の先生は、ほとんどいないと思います。
放課後児童指導員ってどんな仕事?
放課後児童指導員って、あまり馴染みのない職業かも知れません。「先生」と呼ばれますが小学校の先生でもない。具体的な仕事内容をお伝えしたいと思います。
子ども好きなら務まる?
一言で言うと、小学校の放課後、土曜日、長期休暇に子どもたちを預かり、安全面を配慮してその見守りをします。子どもたちの宿題を見たり、一緒に遊んだり、もちろん教室の掃除や片付けなど。
放課後児童指導員の求人の仕事内容は、こんなところだと思います。これを見て応募してくる人に、子どもが好きでない人はいないと思います。ところが、働き始めて、児童指導員の現場を知って嫌気がさして早々と辞めてしまう人も少なくはありません。
勤務先によって、天国と地獄
児童指導員の現場、といっても、勤務する小学校によって仕事の大変さは全く違います。幸いにも、私の勤務する小学校は人数も少なく、落ち着いています。やんちゃでも子どもらしい子どもが多いです。もちろんケンカもあちこちで勃発していて、しょっちゅう「先生~!」と訴えにきます。でも激しいケンカに発展したことは私の知る限りありません。
ちなみに、先日の4年生のやんちゃ坊主ふたりのケンカの内容です。手先の器用な指導員が折り紙をチョキチョキ切って蝶々やカブトムシ、葉っぱなどを次々と作ってくれました。欲しい子どもにプレゼントしていたのですが、その中のバイオリンがどうしても気になるふたり。
取り合いになり、指導員が「同じもの作るから」と言ってもダメで、最後は男性指導員に叱られて双方大泣きになりました。折り紙のバイオリンがどうしても欲しい4年生、まだまだ可愛いです。
私の小学校はこんな感じですが、研修に行った際に、他校の指導員の方とお話する機会があります。同じ小学生でも、荒れている小学校では、児童指導員の現場も本当に大変です。長机の上を飛び歩いて追いかけっこをする、指導員に暴言を吐く、なんて日常茶飯事、目を見て真剣に注意している指導員に対して、顔に唾を吐きかけた子どももいると聞いて驚きました。
これでは、やってられないですよね。小学校の先生のように、ある程度、学校の権威の中で指導が出来て、お給料も安定していて…となると、もちろん大変ではあっても頑張れるかも知れません。一方、児童指導員の雇用はとても不安定なのです。
問題は、低収入であること
子どもが好きで、子どもと関われる仕事がしたい、とは言っても、食べていくための給料を得なければならない。ところが、児童指導員の現場の大変さに引き換え、お給料が安い。
月給制の社員は、大抵は各施設の責任者ひとりだけです。ほかの児童指導員は全員時給制で、自治体にもよりますが1000円前後で決して高くはない。しかも長期休み以外は、平日はだいたい3時間程度しかありません。この仕事だけで暮らしていくのは大変です。多くの指導員が、仕事の掛け持ちをしています。
勤務先によっては激務ともいえる仕事です。子どもが好きだから、というだけで続けられるものでもありません。そんな児童指導員として働いている人は、いったいどんな人たちなのでしょう。
児童指導員として働いている人たち
小学校や保育園とは違い、児童指導員になるには特別な資格は要しません。求人にも「資格不要」となっていることがほとんどだと思います。児童指導員として働いているのは、主に次のような人たちです。
中年以上の女性
子育てを終えて時間ができて、子育て経験を生かして短時間だけ働いてみよう、という女性がとても多いです。主にご主人の扶養枠内にいて、あまり稼ぐ必要もありません。
自分の子どもたちは立派に育て、地域の子供会やPTA活動とも関わってきたという自信はある。しかし、大人数の子どもを「指導」する立場としては、戸惑うことも多いようです。
たくさんの子どもを見たといっても、子供会やPTA行事では主にイベントの日だけ。特に「指導」も必要ありません。また、女の子だけを育てたお母さん先生は、やんちゃな男の子にどう接していいのか分からず、困っていることも多い。優しすぎて、子どもが全く言うことを聞かない場面も多々あります。
人手も足りていて、落ち着いた小学校ならいいのですが、困るのは、人手不足の時。お小遣い程度にだけ働きたい女性も多く、自分の決めた時間や曜日以外は入れないという人が多い。稼ぎたいわけでもない。そうなると、中長期的な欠員が出たときなどは、それ以外の少ない指導員で全てのシフトを埋めなければならず、大変なのです。
もちろん、気を遣って空いたシフトに入ってくれる人もいます。でも、頑として自分のもともとの勤務以外は出られないと訴える人も。こういう人は「児童指導員の現場の大変さ」を痛感することはあまりないかも…。
幼稚園教諭や保育士
私もそうですが、保育士や幼稚園教諭の経験者も多いです。私がまず戸惑ったのは、その「決まり事」の内容でした。各教室で、違いはあると思いますが。
保育士は子どもたちとのスキンシップも大切です。抱っこを求められたれ、出来るだけ抱っこしてあげると心の安定にもなります。反対に、ここではスキンシップ厳禁です。保育士の先生が最も気を付けるべきこと、と最初に釘をさされました。他の子どもが嫉妬して変な風に告げ口をして、問題になったこともあるそうです。甘えてきても、突き放すわけではなく、優しく、やんわりかわさなくてはなりません。
こんな風に、保育士として当たり前にする行動が、放課後児童指導員としてはNGだったりするので、気を付ける必要があります。
また、私が最初の頃は、つい幼児向けの言葉を使って子どもに笑われたり、諭すように注意して全く効き目がなかったりもしました。今では怖くなったな、と自分でも苦笑いですが…。
教職員経験者
小学校や中学校の教員として長年勤め、激務をこなしてこられた先生もいます。退職して、ゆっくり子どもと関わりたい、と児童指導員になる人です。
教職員の経験があるので、教えることや大勢をまとめることは得意です。でも、細かなルールを作りがちで、自由にふるまうことをあまり好まない人が多いように思います。
先に述べたように、子どもたちは学校が終わって、スイッチがOFFの状態になって教室にやって来ます。そこで、子どもたちが「おうち感覚」で過ごして好き放題させないようにするための細かなルールが敷かれていました。「ON」の状態をキープし続ける必要があるのか?と、ちょっと驚きました。
でも、ケガにつながるから、という言葉は理解できます。子どもが悪ふざけをしてケガをしても、責任を取ることになるからです。
定年退職した人
この中には、男性もいます。私の勤める教室には、小・中学校の校長を務めた男性の先生もいます。小学校の校長を務めた女性の先生もいます。お給料云々よりも、短い時間だけ、ゆっくり子どもと関わりたい人が多いようです。
大学生
保育士・幼稚園教諭・教職を目指す大学生のバイトも多いです。お兄ちゃん・お姉ちゃん、という感じでしょうか。子どもたちも嬉しそうにまとわりついています。自分の目指す進路と関係するので、真剣に取り組んでくれます。遊び方もダイナミックだったりして、必要不可欠な存在です。
ただ、テスト期間などは全員同時に入れなかったりします。しかも、勤めるのも長くて4年。高い能力のある指導員でも、主要メンバーに位置付けられないのです。
フリーター
正社員の仕事を探しながら、また何かの資格取得の勉強をしながら、アルバイトでつないでいる人もいます。午前中は決まったバイト先、午後からは児童指導員、というパターンの人もいます。
子供好きという共通点はありますが、教育・保育のことを学んでいない人も多く、子どもへの対応で「えっ!」と思う場面もあります。上の人たちが、その都度指導して経験を積めば、主要なポジションの指導員になることも可能な人材です。
「児童指導員」を長く続けられる職業にするためには
児童指導員として働く人たちの背景もあり、勤続年数は5年程度という調査があります。学生・定年退職後といった人も多いので、短いのも当然だとは思いますが、それ以外の人でも正社員で働く人のようには長くは働けないようです。その原因は先にお伝えしたように、待遇の悪さや雇用の不安定さ、それに引き換え、現場の大変さがあります。
お給料のことは、自分が今すぐにどうにか出来るものではありません。でも、現場の大変さは、やり方次第で改善が出来るかも知れません。
職員同士コミュニケーションをしっかり取る
職員同士の連携が取れていないと、子どもたちが好き放題に荒れていることが多いのです。一緒に仕事をする中には、苦手な人もいます。それでも、ひとつのチームなのです。それぞれの得意分野をうまく活用し、フォローもし合う。子どもと指導員との相性もあります。問題のある子にはそれぞれ、比較的相性が良い指導員が一歩踏み込んで関わると、少しは落ち着きやすい。職員同士、お互いを尊重して支えあうことが大切です。
子どもたちとたくさん遊ぶこと
子どもたちと信頼関係を築くためには、たくさん関わることも大切です。自由遊びの時間でも、前の机にどっかりと腰かけて全体を見ているだけの指導員もいます。もちろん見守りは大切です。でも、遊ぶ相手を遠慮気味にずっと探している子どもに声をかけるわけでもなく、見ている。自分勝手なルールを振りかざしている子がいても、見ている。
もちろん、子どもが自主的に解決していけるか見守っているのならいいとも思いますが、単に面倒なのかな?という雰囲気だったりします。だいたい、このタイプの指導員は子どもに信頼されていないので、いざ何か注意したところで全く効果がありません。
積極的に子どもたちに話しかけるなど関わりを持って、「先生も入れて」と遊びの輪に入って一緒に遊んでいくうちに、だんだん打ち解けてきます。そうなると、子どもたちに厳しく叱った時に効果が得られやすいものです。
子どもたちの話を聴く
たくさん遊ぶことも大切ですが、話を聴くことはもっと大切です。大切なのは「聞く」でも「訊く」でもなく「聴く」こと。
子どもには話したいことがあります。それを聞き流されると、子どもはがっかりします。しっかり耳を傾けて「聴いて」くれる指導員には信頼感を抱きます。叱られるような場面でも言い分がある場合も。そんな時にも頭ごなしに叱るのではなく、言い分を「聴く」ことが大切です。くれぐれも尋問のような「訊く」にはならないように。
一緒にたくさん遊んで、たくさん話を聴いて、お互いが信頼関係を築けると、自ずと教室も落ち着き、児童指導員の現場も厳しいながらも楽しいものに変わるはず、と信じています。