仕事をしていると、自分の意見を求められる機会が多々あります。ところが、意見を求められても、発言することが出来ずに困っている人はいないでしょうか。
「自分の意見が言えない」と困っている人でも、意見が言えずに困っている理由は人それぞれだと思います。単に、意見を求められた内容に関して、知識が少ない場合。これは勉強して知識を広げればいいことです。知識が増えると、おのずと自分の意見も増えてくるもので、発言に困ることもなくなるでしょう。
そうではなく、もっと根深い問題を抱えていて、自分の意見が言えない人がいるのです。そういった人たちが堂々と自分の意見を言えるようになる方法を考えていきたいと思います。
相手から否定されることが怖い
物心ついた頃から親の顔色を窺いながら生きてきた人、いわゆるアダルトチルドレンです。親が喜ぶこと、親が気に入ることを基準にして生きてきたのです。自分の意見というよりも、親が喜びそうな意見。親に見捨てられると生きてはいけないから、生存のために自然と身に着けた術なのです。親に否定されると、生存の危機に関わるかも知れない。
それが身についてしまっているゆえに、「相手を怒らせるような意見を言ってはいけない」「正しいことを言わなければならない」と、がんじがらめになってしまい、本当の自分の意見が言えなくなってしまっているのです。
人にはそれぞれ意見があります。好みや考え方も違います。自分の意見に賛同してくれないからといって、あなたが悪いわけではありません。ただ、意見が違うだけの話です。
あなたの意見と全く違った意見を持つ人物が、あなたの意見を否定したところで、あなたの人格を否定しているわけではありません。何も恐れることなどないのです。
正しい意見って何なのか?
人に認められるような意見、正しい意見を言わなければならない、と苦しんでいる人。そんな人の場合、そもそも意見の内容は問題ではなく、他人に認められなければならない、という強迫観念が問題なのです。
認められたい、と躍起になっているのは、自分に自信がないからです。自分の考えをしっかり持っている人は、他人から意見を否定されてもさほど動揺するものではないでしょう。
人によって意見の違いがあるのは当然のことです。否定されても「それも考え方のひとつ」と思えばいいだけです。人格まで否定されたような気分になるのは間違いです。
大小数多くの政党があります。この部分では意見が一致するが、ここはどうしても相容れない。討論を聞いていると良く分かりますよね。違いがあるから、それだけ政党が存在するのです。その中で、どこが正しくてどこが間違っているかなんて、誰にも判定できるものではありません。「考え方が違う」だけです。
カッコつける必要はない
何か意見を求められた時、「みんなに認められるような素晴らしい意見をいわなくては」なんて構える必要があるのでしょうか。みんなが納得することを言わなければ、あなたの価値がないわけではありません。
もちろん、周囲の人から「ほぉー!」と感嘆の声が上がると嬉しいものです。以前に同じような場面で、アドレナリンのでるような心地よい経験をして、また味わいたいという欲求なら分かります。誰しも周囲からの尊敬や憧れのまなざしは気持ちいいですから。
ただ、「そうあらねばならない」と、自分を苦しめてしまうことが問題なのです。どんな意見を言って周囲から否定されたとしても、あなたは価値のある人間です。これだけは忘れないでいて欲しいものです。
相手の反応を怖れず、自分の意見が言えるようになる練習
意見をいうことを過剰に怖れる人は、幼少期の養育環境などが関係していて、複雑に自身の中に蓄積された経験や考え方に苦しめられています。長年にわたって積み重ねられたものは、そう簡単には改善できないかも知れません。それでも、少しずつでも、段階を踏みながら、自分の意見を堂々と言えるようになる方法をお伝えします。
第一段階:事実を言う
自分の意見を他人に伝えることに困難を感じている場合、まずは実際に起きた事実を伝える練習をしてみましょう。日々、少しずつでも構いません。その際には、自分がどう思ったかとかどう感じたかは伝える必要がありません。
実際に起きた事実を伝えるだけで、意見は入っていないで、誰からも「否定」されることはありません。
「昨日、A主任と仕事内容について色々話し合ったよ」と、実際に生じた事実のみを伝えてみるのです。どう感じたか、それについてどう思ったかなどは、第一段階では封印です。ただ、事実を他人に伝える練習として反復してクセ付けてみてください。
第二段階:事実に自分の感情を追加してみる
他人に事実を伝えることに慣れてきたら、第二段階に進みましょう。その事実に関しての自分の感情も付け加えてみてください。「昨日、A主任と仕事内容について色々話し合ったよ。思いがけない発想を聞くことも出来て、面白いなあと思った」というように。
面白かった、びっくりした、ワクワクした、など色々あると思います。ただ、ここで注意すべきは、ネガティブな感情を付け加えないこと。ムカついた、鬱陶しかった、など。
ネガティブな言葉は、聞いている相手に不快感を与えます。また、ネガティブ思考の人を引き寄せてしまう力を持っているのです。「言霊」っていいますよね。言葉には魂が宿っています。ネガティブな言葉は、強烈にネガティブな人間や現象を引き寄せ、結果としてストレスフルな状況に陥ってしまいます。
「A主任、超ムカついた」などと言っていると、ネガティブ思考の人間が引き寄せられてきます。付き合っていく上で、あなたの意見を何かと否定するなど、ストレスを与えてくる人間です。それ以前に、「あの人、A主任の悪口言ってたよ」と吹聴されて、厄介な事態に陥ってしまう危険性も高いですよね。
「嬉しい」「有難い」など、ポジティブな発言をしていると、ポジティブ思考の人が引き寄せられてきます。ポジティブな人は、肯定的に物事を受け止められる人です。他人の意見に対しても、頭ごなしに否定したりせずに、肯定的に受け止めようとしてくれます。こういう人には、どんどん自分の意見が言いやすいですよね。
でも、その事実に関して、「ムカついた」などネガティブな感情しか追加できないような場合はどうすればいいでしょう?「ムカつく事実」のようでも、見方を変えれば全く違ったものになります。「A主任は自分と全く違う考え方で驚いたけど、そんな考え方もあるんだなって感心した。ひとつ自分の引き出しが増えたかも」というようにも考えられるのです。
「ひとつの事実」が捉え方次第で、全く違う事実となるのを実感したことがあります。自死した親族の初七日でのこと、お坊さんは「自死」という言葉は出さずに「彼なりに精一杯に命を全うされた」という内容の説法を説いてくださいました。私の心には深く沁みて、なんて良いお話だろうと涙しました。心も救われました。
ところが、お坊さんがお帰りになった後、何人かの親族は激怒していました。「自死にわざわざ触れるようなことして、失礼だ!」というような内容でした。
このように、同じ物事に対しても捉え方は全く違う場合もあるのです。肯定的に捉えられる方が、幸せだと思いませんか?同時に、意見に正解などないということもよく分かりますね。
第三段階:相手の意見をまず肯定する
相手の人から否定されることを怖れて、意見を言えない人は、まず相手の意見を肯定してみてください。それから自分の意見を言うのです。意見を肯定された相手は、あなたの意見を否定しようとはしないものです。
「〇〇さんはこう考えるのですね。なるほど、よく分かりました。そして私は、こう思います」というように。「でも」よりも「そして」を使うと良いですね。相手はあなたから理解されたと感じるので、自然とあなたに好感を抱きます。誰しも好感を抱いた相手を攻撃しようとはしないものです。賛同はしなくとも「それもひとつの考え方だ」と、受け入れてくれるのです。
第四段階:堂々と意見を言う自分をイメージ
イメージングの力をご存じですか。具体的に、鮮明にイメージすることによって現実になると言われています。プロのスポーツ選手たちも、成功イメージを取り入れていることはよく知られていますよね。
人から否定されることを物ともせず、堂々と意見を述べている自分の姿を思い描いてください。その時の自分の声なんかも鮮明にイメージしてください。それを繰り返していると、現実に自分に出来る気になってきます。
もう、あなたは「分の意見を堂々と人前で言える人」です。自分のセルフイメージがそのように固まれば、意識しなくても出来るようになっているのです。
補足:SNSを使ってみる
これまで見てきたように、段階を踏んでも自分の意見を言葉で伝えるのが難しい場合は、SNSを使って自分の感じたことを投稿してみましょう。
会話であれば、目の前の相手に対して話す必要があるので、焦ってしまったり、何も言えなくなってしまうかも知れません。SNSであれば、じっくり考えて自分の意見をまとめてから発信することが出来ます。発信するまでに何度も書き直せばいいので、意見を伝える練習に最適なのではないでしょうか。
Twitterで匿名アカウントで発信すれば、あなたの意見だとみんなに知られることもありません。だからと言って、ネガティブな発言は避けましょうね。
自分の意見が言えなくても大丈夫
発想の転換をしても、段階を踏んでみても、自分の意見を言うことは難しいという人もいるかも知れません。そして、「言えない自分はダメだ」なんて感じてはいませんか?
最初に述べたように、問題の原因は複雑に絡み合っていて、簡単に解決できるものではありません。それは、あなたに責任があることではないのです。
人はそれぞれ、感じ方も違います。得手不得手も違います。なかなか思うように進まなくても、焦ったり自分を責めたりしないでくださいね。一度でもやってみることが出来たら、その自分を褒めてあげてください。
スモールステップでいいのです。ひとつずつ練習していると、ひとつずつ出来るようになってきます。いつの日か、そのことで悩み苦しんでいた自分を愛おしく感じられる日がくるはずです。