臨床心理士が教えるコミュニケーションの苦手意識と対処方法

「私は、コミュニケーションを取ることが苦手です。初対面の人とあいさつを交わして、定型的なやり取りをすることはできるのですが、顔見知りになってからの雑談が苦手です。どんな話をしたらいいのか分からず、話題を振られても言葉に詰まってしまい、会話に入れません。どうしたらいいのでしょうか。」

 

コミュニケーションに関しては、様々なご相談が寄せられます。特に、件数が多いのは、「雑談が苦手」というお悩み。

 

このような、何を話していいか分からない、言葉に詰まってしまう、今回は、そんなコミュニケーションの苦手意識と対処法について解説をしていきます。

 

実は、私自身、コミュニケーションはあまり得意ではありません。中高生の時に、自分の話をしすぎたり、事実を盛って話したり、そうしたことの積み重ねで、友達が離れてしまったことを経験しました。

 

その経験から、逆に、人に嫌われないように空気を読んで、言動を選ぶようになりました。そうすると、慎重になりすぎるあまり、周りの反応を気にして会話に入れなかったり、言葉に詰まってしまったり…。自分が相手からどう見られているのか、どう思われているのかばかりを気にしていました。

 

今思えば、自己主張しすぎていた時期も、慎重になりすぎていた時期も、仲間に入りたい一心で、自分をよく見せようとしていたのでないかと思います。今では、コミュニケーション・トレーニングの講師なんかもやっているのですが、未だに、ざっくばらんな会話は、得意な方ではありません。

 

そんな私が、自分自身の経験から学んだことを踏まえて、心理学の知見をお伝えしていきたいと思います。

 

1.コミュニケーションの苦手意識が生まれる理由

1−1.自己意識

コミュニケーションに不安を抱える人の特徴として、多くの心理学の研究から、自分自身に意識が向きやすい傾向がわかっています。最初に、その仕組みを解説していきます。

 

自分の容姿や言動、服装、見た目など、他の人から見られている自分に注意を向けることを「公的自己意識」と呼びます。この「公的自己意識」の高さが、人との交流に不安を生み、コミュニケーションの苦手意識を作り出すと考えられています。

 

公的自己意識とは、例えば、友人と会話をしている時に、「私の話している内容は、相手にどう思われているかな」「私の仕草は、相手にどう見えているかな」「私の話し方は、相手にどう聞こえているかな」というようなことに、意識を向けることです。

 

そして、会話中に自分がどう思われているかに意識が集中すると、「今の発言はおもしろかったのか、興味を持ってもらえたのか」などと思いを巡らせ、「うまく話せてなかったんじゃないか」、「つまらないと思われているんじゃないか」、と考えれば考えるほど不安になってしまいます。

 

不安になると、よく見せなければという気持ちが強くなり、さらに、自分の話す内容や話し方に意識が向いてしまい、悪循環になります。不安でいっぱいになるとどうなるでしょうか?よく見せようとばかり考え、相手の話には集中できず、噛み合わなってしまいます。

 

そして、失敗を恐れて、会話に入れなくなってしまったり、あるいは、もっとよく見せなければと焦り、話すぎてしまったり。そして、さらなるコミュニケーションの苦手意識を作り出すことになります。

「自分の話はつまらないんじゃないか」、「どんな話題で会話をしたらいいか分からない」、「会話に入っていけない」と思い悩む人が多いですが、そもそも相手の話を楽しんで聞いているでしょうか?相手に関心を持っているでしょうか?

 

コミュニケーションは相手に興味を持つところからです。「コミュケーション上手は、聞き上手」。良い聞き手は、相手を観察し、相手の話を深く理解して、反応ができる人です。良い話し手は、相手のニーズに合わせて、相手が理解できるよう話せる人です。コミュニケーションが上手な人は、相手のニーズをキャッチするのが上手な人です。

 

1−2.セルフチェック

自己意識のタイプをチェックしてみましょう。有名なものに、心理学者のフェニグスタインらが作成した「自己意識尺度」というものがあります。当てはまると思う数を数えてみてください。

 

1. 自分のことについて反省することが多い

2. 人が自分をどう思っているのか気になる

3. 自分の気持ちに注意を向けていることが多い

4. 人に良い印象を与えているか気になる

5. いつも自分のことを理解しようと努力している

6. 人に自分をどう見せるか関心がある

7. いつも自分が何をしたいのか考えている

8. 自分の外見が気になる

9. 自分自身の感情の変化に敏感である

10.自分の上方や服装をいつも気にかけている

 

全体で当てはまった数が、3以下の人は自己意識が低い傾向、4~6の人は自己意識がやや高い傾向、7以上の人は、自己意識が高い傾向があります。

 

また、このテストは、2種類の自己意識に分類されます。1つは「公的自己意識」、もう1つは「私的自己意識」です。私的自己意識とは、自分はどう思うのか、自分はどうありたいか、という意識のことです。

 

偶数項目の数が、1以下の人は公的自己意識が低い傾向、2~3個の人は公的自己意識がやや高い傾向、3以上の人は公的自己意識が高い傾向があります。

 

奇数項目の数が、1以下の人は私的自己意識が低い傾向、2~3個の人は私的自己意識がやや高い傾向、3以上の人は公的自己意識が高い傾向があります。

 

セルフチェックは、完璧なものではありませんので、当てはまった数が少なくても、自己意識が高い場合もありますし、その逆もあります。必ずしも正しいものではありませんが、参考にしてみてください。

 

1−3.自信のなさ

この「公的自己意識」、それ自体は、問題ではありません。海外の研究では、公的自己意識が高くても、対人不安とは関係が見られないという報告もあります。これは、自信が影響していると考えられています。

 

自信があると、「私は相手にどう思われているだろう」と意識が向いた時、「私は、相手に受け入れられているだろう」、とポジティブに捉えるために、不安にはつながらないということでしょう。

 

公的自己意識が高く、加えて、自信がないとき、対人関係への不安が高まり、コミュニケーションの苦手意識が強まると考えられます。

 

2.対処法

あなたは、コミュニケーションが下手なわけではありません。でも、不安がじゃまをして、苦手意識が生まれてしまっているのです。

 

その状態を変える工夫をしていきましょう。そのための一つが、コミュニケーション・スキルのトレーニングを積むことです。スキルやテクニックが、重要なわけではありません。スキルを学ぶことで、不安が軽減する場合があります。

 

2−1.傾聴スキルを高める

①目の前の相手に集中する練習

コミュニケーションにおいて、最も大切なことは、目の前の相手に集中をすること。そして、相手の話にどれだけ注意を向けていられるか、これが最も大切で最も難しいのです。

 

「自分の思ったことを伝えよう」とか、「気の利いた質問をしよう」とか、何かをしようということは考えなくていいです。

 

もし、相手の話から注意が外れたことに気が付いたら、すぐに相手の話に注意を戻してください。そして、よく聞きます。相手が、何を話しているのか、何を意図しているのか、理解をしながら聞いていきます。遮らずに、最後まで聞いてください。

 

「そんなこと、できてるよ」と思った方もいるかもしれませんが、意外と、話を聞きながらでも、他のことに考えが飛んで行ってしまいます。それは、自然な心の働きなので仕方がないのですが、集中をして話をきくという意識を持つだけでも、コミュニケーションのパターンが変わります。

 

相手の話をよく聞き、相手のことをよく見て「観察する」という意識が持てると、相手から学ぶこともできますし、「観察されている」という自己意識から視点を変えることができるので、不安も自然と軽減します。

 

②非言語コミュニケーションとあいづち

非言語コミュニケーションとは、言葉以外から相手に伝わるメッセージのことです。話を聞く姿勢や仕草、視線などが、それにあたります。

 

腕を組んだり、携帯をいじったり、というのは、相手によくない印象を与えますが、何も、背筋を伸ばし、相手の目をじっと見て聞かなくてはならないということはありません。

 

雑談の時に、面接を受けるような姿勢では、自分も相手も緊張します。背もたれに、ゆったりと背中をつけるくらいでいいと思います。

 

相手の方向に顔と体は向けますが、じっと目を見て話す必要はありません。目を見て話すのが苦手な人は、相手の方向を眺めている程度で大丈夫ですし、時々外すくらいの方が自然です。

 

また、「うん、うん」と、細かいあいづちを入れたり、頷いたりしながら、話を聞き、時々「そうなんですね」と一言入れられるといいです。姿勢や仕草、あいづちは、相手に「話を聞いているよ」と、メッセージを伝える効果があります。

 

③相手のニーズをキャッチして!

「相手の話に集中して、うなづきながら、最後まで話を聞く」、表面的に行う分には、何ら難しいことはありません。

 

ポイントは、「聞いているフリNG」、「分かったつもりNG」です。聞いていたつもりでも、途中で分からなくなってしまうことがありますよね。

 

その時に、分かっているフリをしながら聞いてしまうのが、人間というもの。ですが、それで、無理やり、それっぽい返答をしても、相手には、どこか噛み合わない感じが伝わってしまいます。分からないことを流して聞いてしまうのは、自分をよく見せたいため。

 

フリをするだけでは、「ちゃんと聞けているかな」と自分に注意が向き、不安の内容が変わるだけ。本末転倒ですよね。

 

傾聴スキルは、本来、相手が気持ちよく話せるよう促し、相手の理解を助けるためのもの。相手が伝えたいことは何か、相手が言おうとしていることは何か、「目の前にいる相手」に思いを馳せ、会話をしてみてください。

 

会話はキャッチボールです。相手からボールが来たときは、それをしっかり受け止める。受け止めてから、投げ返す、ということを意識してみましょう。自分の聞き方で、相手の話し方も変わり、自分の反応のしやすさも変わります。

 

④推測をやめると自然と話題が生まれる

「コミュニケーションが苦手で、他人と、うまく話せないんです。」

 

例えば、この話を聞いて、どのような状況だと想像するでしょうか。私たちは、常に推測をしながら、相手の話を理解しています。それは、私たちの能力なのですが、先入観や自分の経験がふんだんに込められてしまうものです。

 

「うまく話せない」というのは、話題が思いつかないのか、緊張して言葉に詰まってしまうのか、考えを整理できず支離滅裂になってしまうのか、とか、いろいろな可能性が考えられます。

 

「他人」は、初対面の相手なのか、同性や異性で違うのか、年上や年下、同級生で違うのか、など、本当は、わからないことがたくさんあります。

 

相手の話に興味を持って聞くと、そういう疑問や関連した話題が自然に思い浮かんできます。できるだけ、フラットな状態で、聞けるといいですね。

 

3.会話の満足感とは

最後に、私たちは、どうして「コミュニケーションが苦手でうまく話せない」と悩むのでしょうか。何も、自分の言い分をスラスラと話し、相手を圧倒したいと思っているわけではないと思います。一方的に流暢に話せたところで、会話の満足感は得られないのではないでしょうか。

 

コミュニケーションの苦手意識の克服は、ゴールではなく、手段だというように思います。楽しく会話に参加したいのにそれができないから、コミュニケーションの苦手意識を克服したいということではないでしょうか。

 

「うまく話せるようになれば楽しく会話ができるのに」との思いで、改善をしたいと考えているのではないかと思います。

 

会話の楽しさは、お互いのことを理解し合えている感覚であったり、安心してリラックスできる雰囲気であったり、そんな体験から、感じることができます。

 

それは、相手との相互的なコミュニケーション、自分自身が会話を楽しめる状態、この両方が、成り立つ必要があります。会話を楽しめる余裕を持つには、日頃のケアも大切です。

 

4.まとめ

・コミュニケーションの苦手意識は、自分に意識が向き過ぎていることと自信のなさで、どんどん不安になってしまうために生まれます。

・目の前の相手に関心を持ち、集中をして話を聞きます。

・非言語コミュニケーションとあいづちを使うのも効果的です。

・相手を観察し、相手が伝えたいことは何か、言おうとしていることは何かを考えましょう。

・相手の話に関心を持ち、推測をやめて、フラットな状態で話を聞くと、自然に話題が生まれます。

・コミュニケーションの苦手意識に悩むのは、相手との会話を楽しみたいという思いから。会話を楽しめる余裕を持ち、相互的なコミュニケーションを目指しましょう。

 

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